最近は、オペレーションの比率を下げて専門家や戦略家(経理部門であればFP&A)を増やそうという方針が浸透してきましたが、同時に、オペレーションを減らした時に、それで人財が育つのか、というご質問を多く受けます。
事務のオペレーションを支えるツールの変遷
事務と言っても色々ありますが、昔から商人にとって帳簿をつけることは必須であったので、昔から存在する業務として、記帳やそれに伴う計算処理を取り上げます。
計算機としては、1923年のタイガー計算機、1957年のカシオ計算機、1964年の日本の複数のメーカーによる電卓発売と、計算の自動化は進んできましたが、あくまでも何をどう計算するか(数式)は人間が考えた上で、結果を求めることを補助する物でした。何をどう計算しなければならないかがわかっていないと、業務を行うことは不可能だったわけです。
ところが、1979年から、初期的な表計算ソフトが誕生、1985年には今の事務業務になくてはならないExcelが登場し、1994年に発売されたExcel5.0からVBAも搭載されて、Excelは単なる表計算ソフトからちょっとしたアプリケーション開発が可能なツールとなっていきます。これにより、何をどう計算するか(数式)をExcel(ツール)の中に保持することが可能となり、逆に言えば、「何をどう計算するかがわかっていない人でもできる業務」にすることができるようになりました。
さらに近年ではRPAも登場し、人が一切関わらなくて済む業務も出てきています。
【図1】計算式を保存できるツールの登場で、業務のやり方は大きく変わった
先進企業のオペレーションは優れているが、成長機会としては劣っている
先進的な企業では、RPAも含めた様々なツールを用いて、自動化できるところは自動化を進めていますので、結果、残っている人間のオペレーション業務というのは、自動化が何らかの理由で難しいところ・・・ 必ずしも人間が判断しないといけない難易度の高い業務だから、ということではなく、様々な自動化ツールの制約でたまたま自動化ができなかった部分、ということも少なくありません。
たまたま自動化できなかっただけですから、それらのオペレーション業務を何年実施しても(ただオペレーション業務を実施しているだけでは)全体感が見えるわけではなく、業務目的も業務の前後のつながりもわかりません。
人財育成にはオペレーション業務の実施ではなく、別のアプローチが必要なのです。
【図2】自動化出来なかった業務だけで全体像を想像するのは難しい
三つ子の魂百まで。若いうちこそ良い経験をさせよ!
では、このような時代背景を考慮した上で、どのように人財を育成すればよいのでしょうか。
昨今は経理にしろ人事にしろ戦略人財の育成が必要だと言われていますが、戦略人財を育成したいのであれば、戦略的な業務に早いうちから関わらせることです。
先ほど申し上げた通り、先進的な企業であればあるほど、オペレーション業務から得られる知識は僅かです。基本的な知識を身につけて欲しいなら、その部署で必要とされる知識を明文化して体系的に教える必要があります。
【図3】業務を行いながら使える知識を身につけていけるのが理想
基本的な知識を体系的に整理することも良い成長の場
話は変わりますが、弊社がBPOサービスを提供する場合、基本的にはリモートでのサービス提供をお勧めしています。コストパフォーマンスの良い人材を安定的に供給するには、働く場所の制約はないほうが良いからです。
一橋大学大学院の野中郁次郎教授らが示した組織的知識創造理論のプロセスモデルである「SECIモデル」によれば、暗黙知は、経験を共有することによって、暗黙知のまま他者に共有できるとされています。オンサイトが良い、隣にいて欲しい、と思われるのは恐らくこの、「暗黙知を経験の共有によって伝えられる」ということを狙ったものでしょう。
ひとつ前の項で、必要とされる知識を明文化して体系的に教える必要があると述べましたが、体系的にまとまっていない場合にも同じように、体系的に教えることはできないが、わからない時は聞いてくれたら教えるよ、というスタンスになるかと思われます。
整理の仕方がわからないなどの場合は弊社でもコンサルタントによる文書化のご支援や、BPOを通じた業務の明文化のご支援も行っておりますので是非お問い合わせください。
【図4】SECIモデル
オペレーション業務は派遣よりBPOのほうが手離れが良い
余談となりますが、社員がやるまでもなく成長機会にもならないオペレーション業務は、それでも自動化されるまでは誰かがやる必要があるので、派遣社員などを雇ってやらせるか、外注化するかといった対応になるかと思われます。
近いうちに自動化できる目途がたっているなど一時期のものであれば派遣社員でも良いかと思いますが、暫くの間は自動化されずに実施し続ける可能性が高いのであれば、BPOに出してしまったほうが手離れは良いと考えられます。
戦略業務にシフトする際、オペレーション業務の面倒を見ながら余力で行うのは通常の場合うまくいきません。オペレーション業務をしっかり忘れていられることで、戦略業務に専念することができるようになり、戦略人財としての成長スピードも確実に上がると考えられます。
Horizon Oneでご支援しているある企業では、これまで決算が完全に終わってから実施していた管理会計分析を、決算中の仮集計段階で実施することが試みられるようになりました。さらには期中の進捗確認や着地予想に発展し、業績を計算する業務から、業績を作るために事業部門を動かす業務への発展を目指されています。
ここまでご精読いただきありがとうございました。
戦略人財育成に興味をお持ちの方は、是非、お気軽にお問い合わせください。