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苔の生えたマニュアル

転石苔生さず――日本では、ひとつのことを腰を据えて行うことの重要性を謳う諺ですが、英語圏では真逆の意味であることは良く知られているところです。

今回はこの諺にかけて、使わないマニュアルはどんどん古くなって使い物にならなく(英語的な意味で苔が生える)なりがちですが、地道に使い続け育て続けることで価値を発揮させる(日本語的な意味で苔が生える)方法についてご紹介します。

高齢者に支えられている日本企業

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によれば、令和3年の労働力人口は6,907万人で、このうち65歳以上のいわゆる高齢者は926万人、13.4%を占めています。さらに、廃止傾向とはいえ、まだ55歳で役職定年などという会社もありますが、55歳以上の人数となると、2,134万人、実に30.9%にあたります。

勿論これは労働人口の全体であって、実際には大きな偏りがあります。今年弊社にご相談いただいた企業だけでも、あるチーム、あるいは、ある子会社の間接職が全員55歳以上という例は珍しくありません。定年後の再雇用のメンバーが、なくてはならない機能を担っており、引継をしたいが、必要なスキルを持った後任者が見つからず、引継もできないという話も聞きます。

寿命が延びて長く元気に働ける社会になっているという意味では、55歳以上のメンバーの比率が高くなったり、55歳以上のメンバーだけのチームや組織ができるのは必然であり、それ自体は何ら悪い事ではありません。

しかしながら、労働者の年齢層が上に伸びたことで、新たなリスクが生まれています。
厚生労働省の「令和2年度患者調査」によれば、世代ごとの入院受療率(人口10万人当たりの入院患者数)は、20代~40代の平均に対して、55歳~59歳で2倍以上、65歳~69歳では5倍となっており、入院治療が必要になる(=仕事を休まなければならなくなる)可能性が、年齢が上がるに従って増えていることがわかります。

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55歳以上の入院受療率は、40代までに比べると何倍にもなる

 

 

ギリギリまで働いて欲しいなら、マニュアル化は必須

入院する可能性が高くなるといってもそもそも高い確率ではないのだから、あまり気にする必要はないのではないかとお考えの方もおられることでしょう。確かにそうかもしれませんが、実際に要となるメンバーが突然働けなくなってしまったら、周囲への影響はかなり大きなものです。いずれ誰もが働けなくなる時はくるので、対策をしておいても損はないと考えます。

ではどう対策するかですが、若いメンバーをチームに入れてOJTをしながら育てていくというのは、出来るなら既にやっているものと思います。第2次ベビーブーム世代が50歳前後の今、49歳から下の人口は減る一方、労働人口で見ても、45歳~54歳が1661万人に対して25歳~34歳は1161万人と約3割も減っていますので、若いメンバーを育てながら引継するという従来のやり方だけで追いつかないのは当然と言えます。

そもそも、これだけ労働人口が減る中で、貴重なベテラン人材を交代させることが良い案だとは限りません。むしろ、リスクに対処した上で、ベテラン人材にも働き続けてもらえるようにするほうが合理的ではないでしょうか。
要となるメンバーが突然抜けた場合に困るのは、「やり方がわからない」という問題です。勿論長期に渉れば工数不足も問題となってきますが、短期的にはやり方さえわかれば凌ぐこともできる場合が多いのではないでしょうか。

「やり方を常にわかるようにしておくこと」、端的に言えば、業務のマニュアル化をすること、が、高齢化対策の有効な解決策になります。

 

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労働力人口の推移(内閣府「令和4年版高齢社会白書」より転載)

 

 

BPOを活用してマニュアルを作るとは?

我々が新しく業務を受託する場合、大抵のお客様から何らかのマニュアルを提供いただきます。綺麗なわかりやすいマニュアルである場合もあれば、わかる人にしかわからないメモのようなものだったり、いつか実施した時の実施方法が貼られただけの、マニュアルというよりは記録のようなものである場合も多いです。マニュアルがない業務も多く、お客様によっては、マニュアルがない業務だがBPOできるだろうかとご心配されるケースもあります。

どのような場合でも我々がやることは変わりません。
実際にその業務をやってみて、やり方がわからないところがあれば質問し、一通りできたならば結果があっているかを確認してもらって、やり方が合っていたかを確認します。
そして判明したやり方や判断基準を、マニュアルにまとめていきます。2回目からは結果の確認は省きますが、新たなパターンが発生することは常にありますので、記載通りの手順でうまくいかない場合はそこで止まって質問し、またそこでわかったことをマニュアルに記載する、これをひたすら地道に繰り返していくのです。
もともとのマニュアルの出来が良ければ質問することが減り、そうでなければ質問が多くなるだけの違いです。

そうやって我々は、既存のマニュアルに記載されていないことも含めて、お客様の業務をマニュアル化していきます。業務を実施する時には常にマニュアルを見ながら業務を行いますので、業務が変わってマニュアルが古くなることにも気づきます。わかっていると気づけないこともあるので、適度に担当者のローテーションも行い、属人化が起こらないよう、また、常に最新であるよう、マニュアルをアップデートしています。

 

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BPOを活用して属人化した暗黙知をマニュアル化する

 

 

マニュアル作りにはマニュアル作りのポイントがある

ベテラン人材に属人化している業務も、上記でご説明したようなやり方を経て、マニュアルを作ることができると考えています。ベテランが実施している業務はもちろん、単純オペレーションとは限らないでしょうが、会社のルールや慣例に従った判断も含め、意思決定以外であればマニュアル化できると思っていただいて構いません。

弊社には会計士・税理士・社労士などの専門家もおりますし、事業会社出身の実務経験者とBPO経験が長く"誰でもできる"マニュアルを作ることに長けたメンバーが協力して業務を行うことにしています。従って、ベテラン人材の方に属人化している業務でも、業務の内容を理解し、誰でもできるようにするためのポイントを発見し、それに応じた適切なマニュアルを作ることができるというわけです。

先に記載した通り、マニュアルは業務を実施しながら作りますので、一度は我々に業務委託していただく必要はあります。一定期間業務を行いながらマニュアルを作成し、マニュアルが完成したらマニュアル付きで業務をお戻しするイメージとなります。

業務によっては、色々なパターンがあって、それをある程度経験してマニュアルに織り込まないと、実際に役に立つマニュアルにならないというケースもあるでしょう。その意味では、一定期間の間に、順次業務をお預かりしてはマニュアルにしてお戻しし、新しい業務をお預かりしてマニュアル化する、その間に、前の業務で新しいパターンが発生したら、その部分の内容確認と追記を追加で行う、というような形で進めるのが良いかもしれません。

 

 

"誰でもできる化"が行きつく先

我々もまだ研究中ではありますが、我々は誰にでも業務が実施できるマニュアルを作成することを目指しています。

誰にでもできるためには、下記の条件を満たすことが必要です。

1.業務のやり方が確定しており、臨機応変な対応をする必要がないこと

2. マニュアルに記載されていない情報(予備知識)が不要であること

3. 実施順が明確になっていて、特に途中で変更したり取り消したりといった例外的な業務であっても、手順がわかりやすくなっていること

4. 判断基準が数式で表せるくらいに明確であること

5. セルフチェックの手順まで含まれており、間違いには自分で気づけること


理想は、引継なしでもマニュアルだけ見たら実施することができ、なおかつ、丁寧に愚直にやりさえすれば間違うことがないマニュアルを作ることだと思っています。

ちなみに、上記の134は自動化の必須条件でもあります。

マニュアルオペレーションの手順をそのまま自動化することはできないとしても、業務がこのレベルで可視化されていれば、追加調査をせずともDXツールの仕様検討に入ることができると思われます。ベテラン社員に長く続けてもらうより、自動化を目指したいというケースであっても、マニュアル化は有効な第1歩となると考えます。

 

ここまで精読いただきありがとうございました。

マニュアル化に興味をお持ちの方は、是非、お気軽にお問い合わせください。